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016 菜乃花の爆弾宣言

last update Last Updated: 2025-05-30 17:00:50

 陽が落ちると、明日香の号令で花火が始まった。

 肉を十分に堪能したあおいも、みぞれやしずくたちと一緒になってはしゃいでいる。

「楽しそうだよな、あおいちゃん」

「そうね。あの子、基本的に能天気だけど、仕事中は結構いっぱいいっぱいになってるから。今日一日見てたけど、やっと本当のあおいを見れた気がするわ」

「ははっ」

「何?」

「いや、なんだかんだでつぐみ、あおいちゃんのことを見てくれてるなって思って」

「そ、そんなんじゃないから。私はただ、同僚として彼女を観察してるだけよ」

「分かった分かった、そんなにムキになるなって。ほら、一緒にやらないか?」

 そう言って直希から渡されたのは、線香花火だった。

「好きだったろ? これ」

「……覚えてたんだ」

「当たり前だろ。何年付き合ってると思ってるんだよ」

「全く……変なことばっかり覚えてるんだから……」

 火をつけると、優しい火花が二人を照らした。

「勝負するの、久しぶりだな」

「今まで私の全勝。直希はすぐ落としちゃうんだから」

「集中するのが難しいんだよ、これって……あ」

「はい、また私の勝ち。ふふっ」

「ははっ」

 直希が立ち上がり、大きく伸びをした。

「そろそろお開きかな」

「そうね。みなさんも疲れたと思うし」

「そう言うお前もだろ。今日はもういいから、みんなと一緒に部屋に戻れよ」

「いいわよ。どうせ直希、この後一人で片付けるつもりなんでしょ。私も手伝うわよ」

「いいよこれぐらい。大きいやつは明日片付けるし」

「私がしたいのよ。このまま朝まで放っておくのが我慢出来ないの」

「じゃあ頼むよ。おーいみんなー、そろそろお開きにしようか」

「は、はいです直希さん。ごめんなさいです、私、今日一日ずっと遊ん

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